会社組織内での人と人とのかかわりが希薄になり、コミュニケーションの機会が減っています。それによって社員が仕事以外の職場の環境や、人間関係の悩みを解決できず、仕事のモチベーションや効率に影響を与えます。メンター制度は先輩社員がメンターになり、メンティである後輩社員の身近な相談役になる人材育成制度です。
1.メンターとは
メンター制度における相談役の側をメンターと呼びます。先輩社員がメンターとなり、メンティである後輩社員の身近な相談役になる人材育成制度がメンター制度です。メンターの設定は目的によって役員・管理職レベルから数年先輩まで様々です。
またメンター制度でメンターがメンティに行う面談をメンタリングといいます。
1-1 メンター語源
メンターとは、よき助言者、指導者と訳されます。
メンター(Mentor)の語源は古代ギリシャ文学最古期に書かれた叙情詩の登場人物の名前が由来です。その登場人物の特性からよき指導者をメンターと呼ぶようになりました。
1-2 メンターに求められること
メンタリングでは業務そのものだけではなく、職場の人間関係に関する相談もあり、直属の上司が当事者である可能性もあります。評価を気にすることで、メンティが相談しにくい可能性も出てきます。そのような配慮から、メンターはメンティとは直属の上司や先輩ではない選ばれることが一般的です。
また、相談の内容がプライベートなことや、個人情報に関することもあり、守秘義務についても理解が必要です。
メンターとメンティに関してはこちらの記事ご覧ください。
「メンターとメンティとは?その関係のメリット・デメリットと3つの大切なこと」
1-3 メンターと上司の違い
上司は本人に対して仕事の指示・命令、評価を行うのが上司の役割です。
メンターには経験豊富な上司や先輩がなります。直属の上司以外の先輩がメンターになることが望ましいです。
直接仕事の指示を出したり、評価をする職務上司だと利害関係が生まれたりして、メンター・メンティ双方にとってメンタリングがあまり効果的ではありません。
2.メンター制度
メンター制度とは、企業内で行われる人材育成を目的とした制度です。
経験豊富な先輩社員がメンターとなり、メンティである後輩社員に対して、キャリア形成における悩みや課題の解消を援助して、個人の成長をサポートする役割を果たします。
2-1 メンター制度が注目される背景
2-1-1 職場と社員意識の変化
働く職場は変化しています。就業形態の変化や、社員の意識会社や組織に帰属しているという意識や職場での人間関係も変化しています。それにともない、職場でのコミュニケーションが希薄になる傾向があります。
会社組織では業績重視の傾向が強くなり、組織全体として後輩を育成するという余裕がなくなってきているとも指摘されます。
2-1-2 女性社員の活躍推進
女性活躍の観点から、働きやすい職場環境や主産後も女性が働き続けられるよう制度を整えることが会社の評価にも関係してきます。仕事の能力を高めることと同時に、ワーク・ライフ・バランスの充実も視野に入れ、個々に対するきめ細かいサポートをすることで、環境や制度だけでは補えない人材の育成の手立てになっています。
2-2 面談(メンタリング)
メンターとメンティが定期的に面談をすることで、信頼関係を築き、メンティが課題を解決すると自分で決めて行動を起こせるように、一緒に考え、助言し、力づけをします。
面談は期間・頻度・漫談時間などルールを決めて、業務の一環として就労時間内に行います。
メンタリング内で話された内容を口外しないという守秘義務や、メンタリングでおきた不都合を相談できる相談窓口を用意しておく必要があります。
2-3 メンター制度の効果
メンター制度によって、メンティのモチベーションが向上し、職場環境への適応、知識・スキル獲得につながって、職場への定着率も上がるというアンケートの結果が出ています。
またメンター自身も、メンティを育てよう、サポートする人材育成意識が向上します。メンターの仕事への意識が向上することによって、メンター、メンティ双方にメリットがあります。
メンターとメンティをどこからどう選ぶかによって、組織横断的な連携ネットワークが可能となり、組織風土の活性化にもなります。
メンティが職場環境に適応しやすくなり、働きやすい職場環境が会社のイメージアップにもつながります。
3.他の制度との違い
3-1 メンター制度とOJTの違い
メンター制度とOJTの違いは、その導入目的です。
OJTは知識やスキルの習得が中心になります。
メンター制度はメンティが主体的にキャリアを開発していけるようにサポートします。メンター制度は、業務だけではなく、職場の人間関係やプライベートの相談にものります。
OJT(On-the-Job Training、オン・ザ・ジョブ・トレーニング)は企業内で行われる仕事の教育訓練です。実際の仕事の現場で、上司や先輩社員が指導する担当者になり、担当する部下が仕事をして上で必要な知識やスキルを教育・育成します。
単発的なアドバイスではなく、OJTでは単発的な関わりでアドバイスを行うのではなく、業務マニュアルや評価軸を設定して計画的に実施します。
3-2 メンタリングとコーチングの違い
メンタリングではメンターとメンティ、コーチングではコーチとクライアントになります。
メンタリングもコーチングもどちらも、信頼関係が構築された関係性で、個別対話で行われることは一緒です。
コーチングは、効果的な質問を用いたコミュニケーションスキルで、コーチがクライアントに助言やアドバイスをしないことが原則です。コーチングは、人の自己実現や目標設定を効果的にサポートしていくスキルです。メンターが効果的なメンタリングを行う上で、コーチングは役立つスキルです。
メンタリングもコーチングもどちらも、メンティ・クライアントの話す内容、相談に大きな違いはないかもしれません。異なるのはメンター、コーチの資質と関わり方です。
メンターは、メンティより経験豊富で上司・先輩がなります。その理由は、メンターはメンティに助言・アドバイスを与えるからです。メンターは共感的に話を聴くことによって、メンティの問題課題の解決にむけた自発性、行動までをサポートします。メンタリングではメンターが、メンティの話を聴き、率直なフィードバックや必要であれば助言・アドバイスも行います。
関連記事 コーチングのメリットとデメリットまとめ
4.メンター制度導入に向けての課題
- 制度導入の目的を明確にする
- 課題の整理・対象(メンティ)はだれか
- 全体計画の策定 (目標・ルール・体制)
- 経営幹部の合意
- メンターの育成
- メンターとメンティの選定とマッチング
5.メンター制度とロールモデル
メンター制度と共に女性の活躍する風土をつくるのに、ロールモデルの育成が役立ちます。
5-1 ロールモデル
ロールモデルとは、模範。手本。
「ロールモデル」とは、自分にとって、具体的な行動や考え方の模範となる人物のこと。人は誰でも無意識のうちに「あの人のようになりたい」というロールモデルを選び、その影響を受けながら成長するといわれます。出展 日本の人事部https://jinjibu.jp/
社内では、社員各自がモデルにしたい人をロールモデルに持つことで、目標や手本として、あるいは先駆者として精神的な支えになります。
5-2 女性の活躍推進につながるロールモデルの効果
女性のライフステージは結婚・出産・育児社内で女性の活躍を推進につながります。
ロールモデルがいることで、身近な目標ができ仕事のモチベーションがアップするだけではなく、将来のビジョンやキャリアがイメージしやすくなります。そのことによって、女性社員が今まで以上に能力を発揮し、チャレンジする意欲も増します。
ロールモデルはメンターの本来の意味「よき助言者、指導者」に近く、メンターがロールモデルの資質を持っていると、直接助言をするだけではなく、その人のあり方や仕事への姿勢などがよい影響を与えることになります。
関連記事メンターとは何か?あなたが出会うメンターの3つのタイプ
まとめ
メンター制度は、社内の上司と部下という縦のつながりを超えて、部署を超えた先輩と後輩という関係性を制度化したものです。
今現在、会社組織の中では効率を重視するあまりに、社員同士のつながりをつくる福利厚生やイベント、社員旅行などが減ってしましました。社員の意識も個を重んじる傾向が強くなり、社内で別の部署との交流や飲み会等、いい意味での効率的でない要因が減ってしましました。
人間関係は益々希薄になり、同じ職場で隣の席の社員ともほとんど話をすることがないという状況も見受けられます。
人がチャレンジし、成長するには、職場にいて安心出来ること場所であることが大事です。
自分はこの職場に所属していて、自分には役割があると感じられることが安心感につながります。
安心感は人間関係から生まれます。十分に役割を理解してもらえている、受け入れられていると思える信頼できる人間関係が社内に誰か一人とでも築くことができたら、人は成長し続けていくことができます。
メンター制度の導入が、社内での信頼ある人間関係の礎になることを願っています。
一般社団法人人間力研究所理事
磯ヶ谷ふき子