Lesson 54. お膳立てを整える
英語には「お膳立てを整える(“Getting all your ducks in a row”)」という慣用句があります。これは、漕ぎボートのクルーが漕法をいっせいに揃える様子に由来した慣用句です。このシンプルな原則こそ、成功達成に不可欠なものにほかなりません。
私たちの心は「潜在意識」と「無意識」というふたつのレベルに分かれ、それぞれが自らの「意識」に対して異なるはたらきかけをしています。私たちの心の中では、この3つの部分がそれぞれの目的を持ち、それがいかに破壊的な目的であろうと、自らの目的を粘り強く追い求めているのです。
例として、私がかつてセッションを行った、難病の女性クライアントの話を紹介しましょう。セッション中、私は彼女にこんなお願いをしました。「あなたの病気は、あなたの心の一部によって生み出されています。話を聞いてみたいので、その部分を表に出してみてはくれませんか?」
私たちの心のあらゆる部分が、話を聞いてもらいたがっています。そのため、通常このような「対話」をアレンジするのはきわめて簡単なことなのです。実際、私も彼女の心の残りの部分にはこう頼んだだけでした。「リラックスして少しの間休んでいてください。ソファに座って飲み物でもすすりながら、この様子を眺めていてくれますか?」
その部分が表面に出てきたことを確認したあと、私は彼女と次のようなやりとりを交わしました。
私 「あなたの名前は?」
彼女 「アンジェラよ」(ちなみに、この女性クライアントの名前は「ゲイル」でした)
私 「アンジェラはいくつかな?」 彼女「3歳」
私 「きみはゲイルと何年くらい一緒にいるの ?」 彼女「ゲイルが3歳のときから」
私 「きみはどうして3歳のときからゲイルと一緒にいるのかな?」
彼女「ゲイルを痛みから守るためよ」
私 「きみはどんな方法で、ゲイルを痛みから守っているの?」
彼女「あたし、ゲイルを殺すことにしたの。そうすれば、どんな痛みも感じなくてすむでしょ?」
これはまさに 3 歳の子供の論理にほかなりません。この 3 歳の子供こそ、彼女の心の一部だったのです。
この女性クライアントは心に負った傷のせいで、自分の心から、この「アンジェラの部分」を切り離してしまっていました。 その結果、この一部だけが感情的にも精神的にも、その段階にとらわれてしまったのです。実際、「アンジェラの部分」は宿主(ゲイル)を助けようとしていました。でも、病気の原因である葛藤を生み出していたのは、まさにこの部分にほかなりません。とはいえ、こんなに幼い「アンジェラ」を誰が責められるでしょう? 彼女は「宿主(ゲイル)を痛みから守る」という立派な目的の達成のために、「殺し屋になる」という戦略を使ったのです。
引き続き、私は「アンジェラ」と次のようなやりとりを重ねました。
私 「アンジェラ、きみはその目的を何%くらい達成できていると思う?」
彼女「 15%くらい」
私 「その目的の達成率をもっと高くしたいとは思わないかい?」
彼女「もちろんよ!」
このあと私はアンジェラに、今までの道を歩み続けたら、ゲイルがどれだけ苦しむことになるか見せてあげました。彼女にこう頼んでみたのです。「これから 3 カ月後、半年後、そして 1 年後にゲイルがどんな状態になっているか想像してほしいんだ」
アンジェラは、自分がゲイルを「助け」続けようとすることで、ゲイルに強烈な苦痛を与えることになる、という事実を理解しました。
私はアンジェラに別の方法、つまり「ゲイルに統合され彼女とひとつになる方法」を提案しました。そして、アンジェラを 3 カ月後、半年後、 1 年後へ連れて行き、その方法をとれば、ゲイルが多くの痛みから解放され人生を楽しめるようになる、という事実を見せてあげたのです。
「新しいやり方の方がずっと効率的に目的を達成できる」そう気づいたアンジェラは、この機会に飛びつきました。自分がゲイルに統合されることで、これまで葛藤があった場所に一体感をもたらしたのです。こうしてアンジェラがゲイルとひとつになることで、成功に向けての「お膳立て」が整ったのです。
さあ、今こそ、私たちも成功に関する「お膳立て」を整えるべきときです。次に紹介するエクササイズを実践してみましょう。
このエクササイズにより、意外な「自我」が出てきてもどうか驚かないでください。幼い頃の自分や過去世の自分が出てくる可能性もあります。私もこれまでに何回か、クライアントの一部が「この宿主と数千年以上も一緒にいる」 と答えたケースを目の当たりにしたことがあるのです。これは、魂のレベルに おいて葛藤が起きている証拠にほかなりません。それらを一掃すれば、成功へ大きな一歩を踏み出すことができるのです。
「自分を成功から最も遠ざけてしまっている、私の一部はどこだろう?」こう自問し、その部分を表面に出してみてください。 その部分と対話することについて、あなたの残りの部分にも了解を取っておきましょう。大切なのはリラックスすることです。もしあなたがそう望めば、すべてがうまくいきます。
その部分が出てきたら、次の項目を訊ねてみてください。
名前は何か
年齢はいくつか
あなたと何年一緒にいるか 目的は何か
その部分が否定的な目的を答えたり、「お前を殺すため」などと答えたりしても、さらにその目的を訊ねるようにしてください。肯定的な目的が得られるまで、その部分に目的を訊ね続けるのです。そういった否定的な部分は、肯定的な目的を達成するための戦略に過ぎません。その自我に「あなたの目的は何%くらい達成できていますか?」と訊ねてみてください。今の戦略がどれほど有効でも、「統合を通じて成功への『お膳立て』を整える」という方法以上に効果的なものはないのです。
その自我が現在の戦略を使い続けた場合、あなたがどうなってしまうかを見せてあげましょう。想像を通じて、 3カ月後、半年後、 1年後のあなたの様子を、あなたの心の一部に見せてあげるのです。そのあと、あなたがひとつに統合された場合どうなるかを見せてあげてください。もう一度、 3カ月後、半年後、 1年後のあなたの生活を想像してみるのです。
一体感が伴えば、そこには必ず今以上の成功がもたらされます。そのことを実感すれば、あなたの自我も統合に対する動機を高めるでしょう。あとは、その自我と自分がひとつに溶け合うことをあなた自身が選択するだけです。こうすれば、あなたの心は自然と統合されていくのです。
あなたの一部が肯定的な目的を持っていたら、こう訊ねてみてください。「あなたは今、その目的をどの程度達成できていますか?」
100%未満の答えが返ってきたら、その部分にこう促してあげましょう。「統合を通じてひとつになった場合、3カ月後、半年後、 1年後にどんな状況になっているかイメージしてください」その部分があなたに統合されることで、目的達成がいかに簡単になるか示してあげるのです。
ビジョン心理学創始者 チャック・スペザーノ博士