少年物語/ビジョン心理学チャック・スペザーノ博士成功心理100

Lesson 99. 少年物語

 

このレッスンでは、最近のワークショップに参加した、マーティンという男性の話を紹介したいと思います。ワークショップ当日、彼は皆の前で、こんな疑念を口にしました。「僕は仕事で、自分の足を自分で引っ張っているような気がするのです ・・・・・·」

実はこのマーティンは、数年前のワークショップで 「フォーカス・パーソン」になったことのある人物でした(「フォーカス・パーソン」とは、ワークショップにおいて任意に選ばれる人のことです。その人物の問題についてグループの皆で扱うことになります)。そのとき、彼は「恋人がいない」ことについて不満を漏らしていました。そしてその問題を皆に分かち合った結果、現在はある女性と結婚し、 5カ月になる息子にも恵まれたといいます。
どうやら、マーティンは新たな突破口を探 して、今回のワークショップに参加した様子です。彼は人間関係と仕事の両面で成功しているにもかかわらず、やがてまた「どちらの分野にも共通する罠にはまっている」ことに気づいたのです。

前述のとおり、マーティンは 「僕は仕事で、自ら困難を創り出しているのではないか?」という疑問を抱いていました。そしてこの問題に取り組むうちに、私たちは「彼がそうしているのは、自分に試練を与えるためである」という事実に行き着いたのです。

よけいなことをしなければ、彼は大きな成功を手にすることができたはずです。ところが彼はその代わりに、その成功を起こすための障害となる、あらゆる困難に立ち向かうことを望んでしまいました。彼が求めていたのは試練にほかなりません。成功を求めていたものの、それを努力なしで手に入れるのはイヤだったのです。

同じように、マーティンは妻を 「たやすく」手に入れることにも抵抗を感じていました。彼は彼女を「獲得」すること、そして彼女にふさわしい男になるよう厳しい努力を重ねることを望んでいたのです。このため彼は仕事のみならず、夫婦関係においても不必要な試錬を自ら設定してしまっていました。
マーティンはまるで、お気に入りの筋書きのゲーム (「あらゆる困難を乗り越えて成功する」)をプレイしているように見えました。そう、彼はヒーローを演じるのを楽しんでいたのです。不幸なことに、彼は真の英雄になる代わりに、その役割を「演じて」しまっていました。これは、無価値感に対する埋め合わせにほかなりません。彼は自分の仕事に対する報酬(たとえば 「お金」などの成功の形)などはどうでもよかったのです。

マーティンは富や豊かさ、報酬を受け取ることよりも、血湧き肉躍る大冒険や英雄的な行為に興味を抱いていました。言い換えれば、彼は少年のように振る舞い、「伝説の竜を倒したあとに、そのご褒美として妻をめとる」ことを望んでいたのです。 私は彼にこう言いました。「あなたの子供じみた英雄ごっこに奥さんをこれ以上つき合わせたら、今度は奥さんが竜に変身してしまいますよ」と。

成功めざしてがむしゃらにはたらくにつれ、マーティンは「英雄」さながらの疾風怒涛の生活を愛するようになってしまいました。そのため、自分が得た「収穫」を 一度も楽しもうとはしなかったのです。突破口を開くたび、彼はそれを活用して、 さらなる仕事を達成していきました。それでもなお、彼は自分自身に受け取ることを許そうとはしなかったのです。それは、 彼が受け取ることに無関心だったからにほかなりません。

マーティンは 「ジェット気流」のような生き方を愛していました。そのことが彼の妻にどのような影響をもたらすか気づかせるために、私はこう言いました。「あなたがジェット気流で、奥さんが一輪の花だと想像してみてください」ーこの言葉をきっかけに、マーティンは自分のこれまでの行いに気づくことができたのです。

彼は、自分が妻を「英雄マーティンの物語」の助演女優に仕立てていたことに気づきました。彼にとっては自分の人生がすべてであり、妻は自分へのご褒美のひとつに過ぎなかったのです。
さらにマーティンは、 3歳のときの大きなハートブレイクを埋め合わせるために、自分がずっと雄々しい「少年物語」を生き抜いてきたことに気づきました。この「少年物語」のせいで、彼は自分のニーズを隠し、自立してしまっていたのです。「僕は妻よりもその『少年物語』と共に生きたがっていたんだ」そう気づいたマーティンは、その物語をすぐに手放すことを決意したのです。

このエピソードからは、もうひとつ別のことも明らかになります。それは「夫の『少年物語』に不平を言う妻たちは、実際は自分自身に対して不満を抱いている」ということです。事実、彼女たちは夫と結託してその「少年物語」を創り上げていると言っていいでしょう。夫が多忙なら、彼女たちは自立の状態を保ち、 パートナーシップの次のレベルに進む必要がなくなるからです。そう、彼女たちも自分の中に「少年物語」を隠しているのです。
このテーマを掘り下げた結果、私たちは 「自立した女性の多くもまた『少年物語』を抱えている」という事実に気づきました。さらに、「『少年物語』を抱えている人は皆、「特別扱いの物語(人生が自分を中心に回っていく物語)」も抱えている」という事実を発見したのです。

加えて、私たちは「強烈な『少年物語』を抱え込んでいる夫は、同じように強烈な「特別扱いの物語」を抱えている女性を妻にしている。そしてそのことが問題や病気、あるいは精神的な浸り込みとして、彼らの人生に表れてしまう」という事実も発見しました。このように、夫と妻が異なる形の「特別扱いの物語」を抱えた場合、それは〈偽りの愛〉や〈間違った関心〉という形で表れてしまうのです。彼らがこのような物語を抱え込んでしまうのは、失われた絆を埋め合わせようとしているからにほかなりません。しかし、そこには人間関係を成功に導くための要素、「対等さ」が欠けてしまっているのです。

「少年物語」を抱えているとすれば、それは私たちがバランスを欠き、働きすぎている証拠です。「少年物語」は、私たちの生き方を決めるために用いられます。それは私たちの人生を大胆に展開させるための、一種のコントロールと言えるでしょう。ところが一般的に言って、それは 「最善の方法」でも 「最も簡単な方法」でもないのです。

「少年物語」は、女性性および受け取る能力を避けるための方法です。そこに存在するのは、その人のはたらきに対する褒美を受け取ることよりもむしろ、ハードワークヘの大きな投資にほかなりません。そこには容易さなど微塵も感じられず、あるのは大げさな勇ましさだけです。もちろん、恩恵も最小限に抑えられてしまっています。それは、私たちが「容易さや恩恵よりも、ハードワークをこなして自分を成功させることの方がもっと重要だ。そのスリルをさらにレベルアップしたい」と考えているからです。あらゆるものの目安が「自分を開くこと」 や「受け取ること」よりもむしろ、「どれだけ刺激的に行動するか」になってしまっている状態です。

先のマーティンの問題を共に考えるにつれ、私たちは彼が成功しているにもかかわらず、心に大きな分裂を抱えていること に気づきました。彼はこれまでその分裂を誰にも気づかれない よう、自分の中に隠し続けてきたのです。
マーティンは妻を心底愛していたため、自分の 「少年物語」を今すぐ手放すことを強く望みました。そうすることで、自分 の男性性と女性性のバランスをとり、真の意味で彼女の助けになりたいと考えたのです。そしてその瞬間を境に、マーティンはさらに妻の大切さを実感し、コントロールを手放し、彼女および天にまったく新たなレベルで身を委ねることができました。その結果、ふたりの関係をより良くする新たな可能性を見つけたのです。そう、彼はこう気づくことができました。「『少年物語』を手放せば、自分の人生にバランスが戻る。そしてこれまでとは比較にならないほど大きく受け取り、褒美を得て、 自由な時間を楽しめるようになるのだ」

そのあと、私たちはマーティンにあるエクササイズを実施してもらいました。それは、彼が自分の「少年物語」とコントロ ールを手放すことを態度で示すためのエクササイズだったので す。
そのエクササイズの一環として、彼は自分の妻の役を演じる女性に近づき、彼女を強く抱きしめました。その瞳は愛の光でキラキラと輝いています。彼が新たなハネムーンをはじめたことは、その教室にいる誰の目にも明らかでした。
このあと、彼は「真実の愛の物語」「美しい人生物語」に自分自身を開いた感じはどのようなものか、さらに、その感じの方が「少年物語」よりもいかにぴったりくるかを私たちに熱く語ってくれたのです。

今日は、人生において「少年物語」をいくつ抱えているか、自分に問いかけてみましょう。あなたの「少年物語」が自分自身やパートナー(あるいはパートナーがいないこと) にどのような影響を与えているか、よく考えてみてください。それらの「少年物語」を手放すことを選びましょう。そして、ハイアーマインドが代わりに与えてくれるものをじっくりと見きわめるのです。

ビジョン心理学創始者 チャック・スペザーノ博士